夜の海の優しい波の音と、月の淡い光がわたしたちを包み込んでいた。

『あとはお二人さんで』なんて、レイは妙な気を利かせて赤い車で立ち去った。

わたしと穂高は、二人きりの夜の海で、防波堤に座りながら、いつの間にかどちらからともなく、手をつないでいた。

打ち寄せる波の音が、気持ちいい。

流れる長い黒髪を押さえながら、横にいる穂高を見た。

「レイってすごいね。ただのナンパ男じゃなかったんだ」

ふっと穂高が微笑む。

「あいつのすごいとこは、女の気持ちならなんでもわかってしまうところだな。さっきだって泉水は抵抗しなかった。抵抗しないってわかっててやったんだよ、あいつは」

「なにそれ、自信過剰~!」

ふふふっと笑ったわたしを穂高が瞳を細めてじっと見つめた。

「……穂高……?」

「…今、キスをしたら神音が抵抗するんじゃないかって、わからなくて、怖い」

瞳を揺らしながら、そっとわたしの頬に触れる穂高の戸惑ったような表情。

……胸が、きゅんと疼いた。

穂高にこんな顔させるのは、わたしだけかな、なんて少し幸せな優越感も感じながら。

「…穂高、負けず嫌いなんでしょ?」

「え?」

「じゃあ、レイのキスにあてられてかわいそうだから、穂高にもキスしてあげる」

チュっと軽く触れるだけのキスをする。

突然キスされて、穂高は少し照れたように顔を赤くしたけど。

すぐにわたしの腕を掴んで言った。

「オレ、相当の負けず嫌いなんだ。レイのキスはこんなもんじゃなかったけど?」