レイの顔がその吸血の勢いに、どんどん蒼ざめていくのがわかる。

悩ましげに宙を仰ぐレイの額から冷や汗が流れる。

「…泉水…!もうやめて…!」

泉水を止めようと一歩出たわたしに、レイがニッコリと笑って首を振った。

……どうして………?

直後。

レイの体が痺れたように、ビクンと震える。

「…………レイ―――――!!!」




「……殺せない」

ポツリ、と聴こえた呟き。

泉水は、レイの首を咬むのをやめていた。

唇から血を滴らせ、それ以上におびただしい涙を流す泉水の哀しげな表情。

「そう、君はもう、殺せないんだ。たとえ、ナンパ男でも、ね」

レイが、蒼ざめた表情で、荒い息のまま、泉水の頬を両手で包み込む。

そして、グイッと泉水の顔を上に向かせると、開いた唇を覆いかぶせた。

泉水は、瞳を見開いたまま少し抵抗するように、レイの胸を叩いた。

でも、その強い力に諦めたのか、それとも、レイを愛し始めていたのか。

……………遠い空の『彼』に差しだすように片手を宙へ彷徨わせると、


そのままレイの首を抱きしめ、瞳を閉じた。


泉水の渇いた瞳が、天の恵みを受けて、熱い涙を流す。


キスを終えた泉水が、呟いた。

「わたしのイヴの欠片が、今、消えた。感じるんだ」



穂高が、優しい笑顔でわたしの肩を抱きながら、言った。

「イヴの欠片は、持つ者を死へと誘う凶器の欠片だ。君は、『死の誘惑』に勝ったんだよ」


泉水は、はち切れるほどの笑顔を見せて、そのままわたしたちの前から消え去った。