「どうしたの?入江さん……?」

後ろで、江島先生の不思議そうな声がしたけど、わたしは振り向けなかった。

……涙が、あとからあとから溢れて止まらなかったから。


跡形もなく消えた額の傷に、わたしは何度も何度も触れ続けた。







――――夢にまで見たママの小説の「キスの刻印」は、




薔薇の香りがした。




わたしが死ぬほどに拒絶していた額の傷に、







穂高………あなたは、「キスの花束」をくれた。