腹違いとは言え、恋人の兄が、恋人を殺し、自分も襲われた時の泉水の心を思うと、とてもじゃないけど、平静ではいられなかった。

「泉水ちゃんは、兄だけは殺せなかった。英二が慕っていたのを知っていたからだ。そして、それから自分をナンパする男を次々と吸血していったんだ。許せなかったんだろう。恋人がナンパ男によって理不尽な暴力で殺されたことを。一族は、彼女がただ闇雲に人間を殺していると思っているが、本当は違う。一番の仇である英一を殺せない自分への怒りが、彼女をそんな行動に走らせてしまったんだ」

車窓から、オレンジ色の太陽が海に沈んでいくのが見える。

ポツリと手の甲に落ちた涙を拭う。

泉水の怒りもあんな風に沈んで行けたらいいのに……。

「泉水は、その港に向かっているのね?」

「泉水ちゃんは、今度こそ英一を殺すつもりだ。さっきオレと会う前に彼女は英一に電話していた。港に来てほしいってね」

「そんな…のこのこと殺されるかもしれないのに、来るのかな?」

港がだいぶ近づいてきた夕闇の中で、レイがハンドルを切る。

「…来るよ。彼は彼女が吸血鬼であることを知ってから、吸血鬼の一族と接触していた。彼女の親戚筋から割り出したようだな。いつ彼女が彼を襲ってきてもいいように、彼女を殺す手筈を整えて、ね」

………吸血鬼の一族と接触!?


「奴らは今までも何度か泉水ちゃんを襲っているけれど、彼女のとんでもないスピードに今までは失敗していた。だけど今夜はチャンスなはずだ。英一を殺そうと気を昂ぶらせている泉水を狙う。奴らは必ず来る。………泉水ちゃんを殺しに、ね」


…………泉水………!!