スッと唇を離した彼は、瞳を細めて眩しそうにわたしを見た。

「…これが、独自の進化を遂げた、オレのキスの刻印の力」

「…え?」

その瞬間、コツコツと廊下からこちらへ近づいてくる足音が聴こえた。

「やっべぇ。完全にオレが襲ってる図だよな。じゃあね、神音」

ベッドの横の窓を開け足をかけた彼に、わたしは慌てて叫んだ。

「待って!!…あなた、誰なの!?」

振り返った彼の顔からは、さっきまでの冷たい表情は跡かたもなく消えていた。

…柔らかく、温かい花のような微笑み。

「浅見穂高(あさみ ほだか)。…ああ、それから、おでこ出したほうが、かわいいよ」

フワリ、と穂高の体が宙を舞う。

「!?」

一瞬驚いたけど、ここは1階だったっけと思いなおす。

でも、それを忘れて驚いてしまうくらいに、彼の体は軽やかに宙を舞ったのだけど。

「……浅見、穂高……」

ふと、陽の光を浴びたように温かい額に触れた。

キス……されちゃった。

突如、6年間全く感じたことのない違和感に、6年ぶりの感触に、

電流が流れたようにわたしは飛び起きて窓に飛びついていた。




「………穂高―――――――!!!」