レイの車に乗って、わたしたちはこの街で一番大きな港を目指していた。

助手席で、レイのちょっとばかり荒い運転を見つめながら、レイの話を聞く。

「泉水ちゃんは、1年前に、恋人だった高杉英二(たかすぎ えいじ)と一緒にこの港へ行ったんだ。もちろんデートのつもりで、ね。でも、その時に泉水ちゃんは初めての吸血の衝動に駆られてしまったんだ。抑えきれないまま、彼を吸血した。でも、彼女は彼を殺してしまう手前で、自分を抑えたんだ。埠頭でぐったりと泉水にもたれかかる彼と抱きしめる彼女を見て、恋人同士のいちゃいちゃだと勘違いしたナンパ男たちが、突然、英二を襲った」

「……まさか、英二さんを殺したのは、その男たち!?」

レイは乱暴にカーブを曲がりながら、続ける。

「そう。もともとたくさん失血していた英二は、殴られて簡単に死んでしまった。そしてその場で、泉水を襲おうとした。……5人で寄ってたかってね」

「!?」

心の底から、怒りがこみ上げてくるのがわかる。

ドロドロとした、怒りも哀しみも入り混じったような、感情の塊(かたまり)。

「それで、泉水は……彼らを殺したのね?」

「ああ。レイプする暇もないくらいあっという間にね」

泉水の自殺願望は、自分への怒りだけではなかった。

憎むべき相手がいたんだ。

「その時殺したのは、4人だけだった。残り一人は、英二の腹違いの兄だったんだよ」

「…どういうこと!?」

「兄の英一はもともと優秀な弟を邪魔に思っていた。そして、弟の恋人である泉水ちゃんに惚れてしまった。かなり歪んだ行動だけどね」