来た時と同じように、わたしたちは学校の裏門から入り込んだ。

時刻はお昼近くになっていて、一度やんでいた雨もまた降り出しそうな重たい空気が流れていた。

塀から降りて裏庭の中を突っ切ろうとしたわたしと穂高の目に、壁に寄りかかってこちらを見ている陣野先生の姿が映った。

「陣野……先生」

陣野先生の姿を見るのは10日ぶりだった。

長い髪をきっちりと一つに束ね、スーツを着て眼鏡をかけている先生の姿は、前と同じく「教師」の威厳を漂わせているけど、その冷たい氷のような瞳が、わたしの息を苦しくさせた。

先生……。

屋上から見えた先生の涙と切なげな瞳が、見間違いだったんじゃないかと疑ってしまうほどに。

穂高がわたしを背中に隠しながら言う。

「陣野。神音はお前の『イヴ』にはさせない」

先生は眼鏡を指先で上に上げてクッと微笑んだ。

「『イヴ』は、『イヴ』にしかなれないんだ、穂高。私が、『陣野火月』という鬼にしかなれないように……」

鬼にしか……なれない。

なぜだか、先生の言葉の響きに、諦めと哀しみを感じた。

わたしはスッと穂高の背中から前へ出た。

「先生、一千年の愛がどんなものなのか、わたしは知りたいと思う。でも、もっと知りたいのは先生がこれから犠牲にしようとしている『命の叫び』よ。先生の愛はほんとうに、彼らを犠牲にする価値があるの?」

先生は、わたしの言葉を微動だにせずに聞いていた。

そして物憂げに長いまつ毛を伏せ、わたしたちに背を向けた。

「2人目は、君たちにゆだねよう。『彼女』の叫びが本物なら、私は手出ししない」

そのまま去っていく先生。

…………せ……んせい……?

後ろから穂高がわたしを抱きしめる。



「神音……お前、かっこいいよ」