真っ暗闇の非常階段に戻ると、穂高はわたしの手をつないだまま、もう片方の手でわたしの頬に触れた。

暗闇だけど、穂高の瞳の奥の揺らぎを感じる。

初めて会った時みたいに全てを見透かすような強い瞳の奥に、不安と、戸惑いに揺れ動く瞳。

穂高はスッと手を離すと、

「ほんとにあいつには気をつけろよ。出会った女みんなにキスするような奴なんだ」

そう言って上に向かって階段を上り始めた。

………キス、されるかと思った。

まだ胸がドキドキしてる。

わたしは穂高の背中を見ながら、そっと彼が治してくれた指先にくちづけをした。

……だめだな、わたし。

気持ちを抑えようとしても、穂高の瞳にくぎ付けになる。

彼のキスが欲しいと思ってしまう。




――――もうこれ以上、好きになっちゃいけないのに。