「ね…人間を吸血したら、死んじゃうよね?」

ポツリと呟いたわたしをレイと穂高が動きを止めて見つめる。

「古河さん…きっと今、死にたいほどつらいんだよ」

穂高はカクテルグラスを指でピンとはじいて、グラスの中で揺れる赤色のカクテルを見つめる。

「生まれて初めての吸血の衝動は底が知れないからね。泉水は抑制が効かないまま人間の恋人を殺してしまった。相手がヴァンパイアならそれを止める術もあっただろう。でも人間の力では吸血鬼に対抗できない。泉水の精神はその時に破壊されてしまった。それからは次々と人間を狙って吸血をしている。吸血鬼はヴァンパイアと違って吸血で人間を吸血鬼にはできないから、次々と殺すことになったんだ」

哀しみを他人の哀しみでしか癒せない泉水の心。

その衝動を止めることができない彼女の渇いた心。

でも泉水は確かに言ったんだ。

「穂高、古河さんがわたしに言ったの。『人間を好きになっちゃだめよ』って。……彼女きっと完全に心が渇いてしまったわけじゃない。わたしに同じ過ちは犯してほしくないっていう優しさもちゃんと持ってる」

「うん」

「わたし、どうしても彼女を助けたい。穂高、吸血鬼の一族の『ブラックリスト』に彼女が入ってるってどういうこと?」

「…吸血鬼の一族は、『ガイア』にいるヴァンパイアやヴァンパイアと吸血鬼の混血とは違って隔絶された場所にいて、同族を常に監視しているんだ。彼らは自分たちの存在が人間に悟られないよう細心の注意を払っている。泉水のような殺人を繰り返す吸血鬼は粛清の対象になるんだ」

しゅく…せい…?

「穂高…粛清って…」

穂高はカランとカクテルを飲みほして、瞳を細め低い声で呟いた。

「吸血鬼の一族にとって邪魔な存在。つまり抹殺の対象だってことだ」