凱はサキちゃんの気持ち全然気づいてない?
「凱?」
「ん?」
「本当にサキちゃん、他の人にも“あいさつ”してるの?」
「あ…あぁ、本人があっけらかんとそう言ってるからさ」
「そう……」
「けど……そんなの見たら嫌だよな。俺これからはそんなことしないから……向こうに帰っても絶対しない。これからは……」
顔を傾ける凱の唇から低いつぶやきが漏れて、
私は反射のように少し唇を開いた。
受け入れる柔らかくて甘い感触に、頭の芯がじんじんとしびれていく。
凱……
今は何も考えたくない、というか考えられない。
重なる唇に、
漏れる吐息に、
私の思考力はがくんとその力を落としてしまうから。
頭の片隅に生まれる、もうひとつの引っ掛かりをごまかすように
私たちはただその甘美な感覚を求め続けた。

