「今、サオリといる」
「え・・・・・・?」
わざと聞かなかったその人の名前があっさり言葉に出てきて、私は思わず歩いていた足を止めた。
「どういう、こと?・・・・・あ、そうか。大学の同窓会かなにかあったの?」
つとめて明るくしようとした私の言葉は、あえなく最後は震えて消えた。
「汐」
「何?」
「・・・・・・別れよう。結婚の話も、なかったことに・・・」
・・・夢、かな。
きっと、そうだよね。
修ちゃん、何を言ってるの?
「母さん達には俺から言っておくから。汐の家の人にも・・・すみませんと・・・」
ポツ、ポツ・・・・・。
降り出した雨が頬をうっていく。
修ちゃんがぼそぼそと言う言葉が、全然聞こえない。
「修ちゃん、何、言ってるの?」
「ごめん。切るね・・・・」
「修ちゃんっ!何かあったの?ねぇ?ねぇっ!?」
「じゃ」
「しゅ・・・・う、ちゃん・・・・」
ブツンと切られた電話の音に、私はただ立ち尽くすことしか出来なくて。

