旅を始めて七年目。

それまでは追われるようなことがなかったから、

俺は敵というものを意識したこともなかった。

キツネに鉢を渡せと言われ、驚き焦った。

あげく、もつれあいになった時、

かたわらに転がっていたガラスで

キツネの腹を突き刺してしまった。

キツネの腹から流れる血を見て恐くなり、

俺がその場を逃げ出したのは言うまでもない。

俺はあの頃から情けない男だった。

自分を守るためとか、大切なものを守るためだとかという

大義名分があってさえ、人殺しをためらってしまう臆病者。

今だって、足元はガクガクさ。

言うなれば、あの時のことは偶然の産物だ。

二度目があるとは思えなかった。