「おめぇ、
 泣きそうなツラしてるぜ?」


「うん」


と、アオはうなずいた。

うなずいたまま、頭をあげることができず、

組んだ自分の足先を見つめる。


「そうなんだ。
 俺は今、すごく
 泣きたかった」

「なんで?」

「だってな。
 だって、サクラ。
 お前が忘却は罪だ
 なんて言うからさ。

 誰か、とても大切な奴に
 忘れられたことでも
 あるのかと思って」


サクラが小さく笑う。

風の中を舞う花片のように儚い笑みだった。

アオはこの言いようのない寂しさを

どうしてもうまく言葉にできなかった。

しかたなし、サクラの言葉を待ち、口を閉じる。

サクラの薄い口唇が少しく震えた。


「そんな不幸は
 背負っちゃいねぇよ。

 けど、本当にさ。
 俺は自分を思い出にされて
 喜べるような寛容さは
 持ち合わせてねぇんだ」