「思い出なんて
一枚しかねぇ紙幣と同じさ。
 希少価値はあっても、
使用価値なんざねぇ」


大学生が住むために造られたワンルームマンションの一室である。

隣も隣も上も下も、同じ造りの部屋が並んでいる

八階建ての建物の二階にある部屋だった。

六畳の台所と八畳の畳敷きの部屋、それに風呂場とトイレがある。

完全に満足できるものでもないが、文句を言うほどのこともない。

実際、部屋の主であるアオも適度な快適さを感じていた。

希望する大学に入学してから三ヶ月。

アオ自身は一人の生活に慣れてきたが、

まだ部屋の内装品は真新しさが抜けてはいない。

ビデオと一体型の珍しくもないテレビは、

あまりテレビを見る癖のないアオにとって

部屋を狭くする邪魔者と成り果てていた。

売り飛ばしてやろうと何度も思ったが、

せっかく親が持たせてくれたものだと思うと、

今はまだ見切りがつけられなかった。