√番外編作品集

「河田君って優しいね」

山岡ちゃんの声の方がずっと優しい。

って言おうとしたけどやめた。

色目使ってると思われるのは嫌だ。

「だって、動物ってウソつかないじゃん。裏切らないし、愛情注いだ分ちゃんと返してくれる」

人間は違うけど。

俺の言いたいことが分かったのか、山岡ちゃんは笑ってサンドウィッチを口にする。

「北川さんとは、遠距離しないんだね」

「うん、南都美のためにもならないしさ。勉強しにいく訳だし。なんつーか、邪魔……したくない」

「邪魔だなんて思ってないと思うけど、でも北川さんもすごく気合い入ったと思うよ」

山岡ちゃんの袖が揺れるたびにうっすらと香水の香りがする。


何の香水だろう、実は気になってる。

「帰ってきた時にまた付き合えたらいいねって」

何を話だしてるんだろう。

俺は指輪のなくなった手を空へかかげて続けた。

「俺も南都美も同じ事言えたんだ。これ進歩だと思う?」

「思うよ」

空から視線を山岡ちゃんへ戻す。

黒い艶のある睫、凛とした表情。

細い指先は、一体どれだけ難解な英文法を解いてきたんだろう。