トントンと静かに階段を上がってくる音がする。
敦子は顔を上げることができず、泣き顔を隠すためぎゅっと体を固めた。
足音は敦子の前で止まると、シュッと布擦れの音をたてて自分の隣に座る。
柑橘系の薫り。
それが千恵だと分かって、敦子は余計に顔をあげられない。千恵にも責められるであろうことは、容易に想像がつく。
だが、千恵は何も言わなかった。
「敦子は蔵持さんの歌声、覚えてる?」
全くあてのはずれた問いかけだった。
「敦子が、バンドメンバーのAKIさんから、CDをもらったの渡してくれたでしょう?」
返事を待っていたのか、それとも間を置きたいのか千恵は沈黙する。
「待ち受けが出ていた時、私の中で聞こえていた歌は本当に怖かったし、救いはなかったし、恐ろしかったけど、生きていた頃の蔵持さんの歌は全然違ったね」
俯いたまま、敦子は呟いた。
「私蔵持さんの歌を聴いて、逆に純粋さとか、想うことの大切さとかとても感じたよ。心はすごく繊細なものだから、たまには色々あるよね。だから敦子がどんな選択をしても、私は敦子を嫌いになんてならない」
千恵は伏したままの敦子にポケットからハンカチを出して手渡す。
敦子はそれを受け取ってぎゅっと握りしめた。
「好きな気持ちはしょうがないよ。ねぇ、マンガみたいな恋ができたらいいなって思ったこともあったんだけどそれは無理だよね。自分が好きな人が、自分を好きになってくれるのは、どんなことより嬉しいけど、どんなことよりも辛い道を通らないと無理なんだもん」
「ちえ」
やっと敦子が言葉を発したが、千恵はそれを遮った。
「でもお願い。潤を無理に嫌いになるようなことはしないで。そんなことするのは、間違いだから」
敦子は顔を上げることができず、泣き顔を隠すためぎゅっと体を固めた。
足音は敦子の前で止まると、シュッと布擦れの音をたてて自分の隣に座る。
柑橘系の薫り。
それが千恵だと分かって、敦子は余計に顔をあげられない。千恵にも責められるであろうことは、容易に想像がつく。
だが、千恵は何も言わなかった。
「敦子は蔵持さんの歌声、覚えてる?」
全くあてのはずれた問いかけだった。
「敦子が、バンドメンバーのAKIさんから、CDをもらったの渡してくれたでしょう?」
返事を待っていたのか、それとも間を置きたいのか千恵は沈黙する。
「待ち受けが出ていた時、私の中で聞こえていた歌は本当に怖かったし、救いはなかったし、恐ろしかったけど、生きていた頃の蔵持さんの歌は全然違ったね」
俯いたまま、敦子は呟いた。
「私蔵持さんの歌を聴いて、逆に純粋さとか、想うことの大切さとかとても感じたよ。心はすごく繊細なものだから、たまには色々あるよね。だから敦子がどんな選択をしても、私は敦子を嫌いになんてならない」
千恵は伏したままの敦子にポケットからハンカチを出して手渡す。
敦子はそれを受け取ってぎゅっと握りしめた。
「好きな気持ちはしょうがないよ。ねぇ、マンガみたいな恋ができたらいいなって思ったこともあったんだけどそれは無理だよね。自分が好きな人が、自分を好きになってくれるのは、どんなことより嬉しいけど、どんなことよりも辛い道を通らないと無理なんだもん」
「ちえ」
やっと敦子が言葉を発したが、千恵はそれを遮った。
「でもお願い。潤を無理に嫌いになるようなことはしないで。そんなことするのは、間違いだから」


