√番外編作品集

敦子のポケットの中のケータイが点滅している。

着信がいっぱいある。

朝、俊彦と別れてからケータイに電源を入れる時、敦子の心のどこかに期待があった。

潤に心配されたかった。

千恵と一緒に映画を見ていたのは偶然で、潤はいつもと変わらないで自分を心配してくれているのだと、証明が欲しかった。

着信はたしかにあった。留守電もあった。

嬉しかったかというと、そんな気持ちはすぐに吹っ飛ぶ。

家に帰ったら、芙美が泣いて抱きついてきた。

連絡しなくてごめんねと言ったら芙美は言いたいことはいっぱいあるだろうに、「無事ならいいのよ」とそれだけ言って仕事へ向かった。

目の下の隈を見れば、寝れずにいたことくらい分かった。

接客業なのに、あんな顔で仕事に出たら回りの人間に何を囁かれるだろう。

芙美には一言くらい連絡すればよかったと罪悪感を感じた。

その後制服に着替えて家を出たら、俊彦からメールがあった。

『学校に遅刻してたら悪い。黒沢のこととか無理しないでいいから』

芙美の件が罪悪感の『種』ならば、このメールで敦子の中で『芽』が出て『花』が咲いた。

自分は優しい俊彦に甘えて、潤の気持ちを確かめるための踏み台にしたのだ。

自分の行動が不純だったことを決定づけられた。

俊彦の短いメール。優しさの分だけ敦子をひどく苦しめる。

それから学校について、1限が終わったらこれだ。

康平には「関係ない」とか「お前が言うな」と突き放したが自分が間違えたことをしたのはもう十分理解していた。念を押されるようで、苦しくて反発したのだ。