√番外編作品集

「店、見つかった?」

「あったよ、トマトタベルナ。予約して記念日だとお会計から20%オフ!」

「よし、じゃあそこ覗いたら──」

「そこでケーキ美味しいか確かめるよ!」

覗いたら帰ろう、と言われそうな気がして、千恵は潤の手をぎゅっと握りしめながら早口で提案した。

潤が少しだけきょとんとして笑った。

「山岡はいつもケーキはチェック厳しいんだな」

「そうだよ、デザートが美味しくないと、台無しだよ!」

「──知ってる」

潤は千恵がどこかムキになっているのが面白いのか、笑いながら答えた。

千恵としてはケーキがどうのこうのより、潤の「知ってる」の一言が嬉しかったのだが、潤がそんな機微を理解しているわけがない。

「途中でちょっと本屋覗いていい?」

「いいよ、でも15分ね、デザートなくなっちゃったら、困るからね」

パタンと折りたたみのケータイを閉じる。

もう検索はしていないけれど、千恵は自分から手を離すことはしなかった。

逆にぎゅっと握りしめて、本屋へ向かって歩き出した。