√番外編作品集

「潤………映画とか……嫌い…なんです」

そして、少し乾いた舌を滑らせて敦子が呟いた。

潤の名前が出てくることは突然だったので、本当なら「突然黒沢の話?」とでも切り返すべきだったが、俊彦は何とも答えなかった。

「暗くて、眠くなるし、字幕を目で追うのが面倒とか、色々難癖つけて、恋愛映画なんてもっての他で、人の恋愛なんか観てもなんも楽しくないからって」

敦子はそこまで言うと、額を押さえる仕草をみせて

瞳からこぼれ落ちる涙を擦った。

「やだ、おかしいよね、なんで昔の潤の話するんだろうね。堀口さんに関係ないのに比べてるみたいで嫌だよね、そうじゃない、そうじゃない……」

「当たり前のことをしないヤツが、突然当たり前のことしてたら誰だって気になる」

俊彦はそれだけ告げて、カバンの中のハンカチを漁った。

敦子に差し出すと、ちゃんと受け取ってもらえた。

「ごめんなさい、潤の話ばっかりして」

「……それだけ飯島が、あいつのこと好きだってことだろ」

改めて言われると、胸が締め付けられるようだった。

敦子は少し俯いて、苦手なコーヒーをぐい、と飲んだ。

苦くて、涙が落ちそうだったのが引っ込んだ。

「もー大丈夫だよ。出ようか」

「飯島」

俊彦は掴んだ手を離さず、身動きせずに続けた。

「でも俺は、もっとお前のこと好きになってやる、約束するから」

「ほりぐっち……」

「──どうしていいかはまだ分からないけど、話聞いてやることならできる」

俊彦は、今の彼女にそれを聞くのは卑怯だ、と感じながら続けた。

だが、見ているのが辛すぎた。

「待つとか言ったけど、悪い、撤回する。答えを聞かせて欲しいんだ」