√番外編作品集

その週の土曜日14時50分

手にしたパンフレットが無造作に足に落ちて、敦子は現実に帰ってきた。

視線の先には、見間違える訳がない、潤の小さな横顔があった。

その隣には、山岡千恵の笑顔があった。

他人のそら似かと瞬きしても、千恵の笑顔は変わらない。

動揺している間に二つの影は前方のシートに着席してしまい確認など取れるわけがなかった。

視線を下げると、これから上映される「スイートシーズンズ」のパンフレットがこちらを見返してくる。


恋愛映画、だよねこれ。

アインシュタインの一生、とかそんな映画じゃないよね。


敦子は胸の内で確認して、薄暗く独特の空気に満ちた映画館の空気を深く吸った。


中学時代、潤と付き合っていた時、彼を映画に誘ったことがある。

だけど彼は眠くなると言って、何度も断わった。

家で見ればいいとそんなことを言いながら……

映画館でデートって、それだけで楽しいし、恋人同士だって思えた。

映画の内容がどうとか、そういうんじゃない。

チケットの半券をデートした日の手帳に貼って、その隣に映画帰りのプリクラなんかを貼れば完璧に映画記念日になる。

そんなことを考えていたけれど、果たせなかった。

だから、潤にとって映画は、特別なもので

──特別な何かがないと、行かない場所だという敦子の考えだった。

暗くなる映画館は自分と、その疑惑を引き剥がすようにして、高音と大画面でせめぎ合って

そして最後には周囲の泣き声で締めくくられた。