「聞いてんの?」

南都美の鋭い一言の次に、左頬に痛みが走る。

「暫く声掛けないでよ、メールもしないで!!!」

南都美は言いたいことを全部行って、屋上を後にした。

残された俺

……河田康平は肩越しに南都美に視線を投げてから給水タンクの影に隠れていた、小さな影に声をかけた。



「はーーい、修羅場は終わったから、もう出てきても平気だよー」



声をかけたのは、親切心だ。


俺と南都美が突然ケンカをはじめて逃げ出せなかったせいもあるが

いきなり殺伐とした修羅場へと変わった屋上の雰囲気に先客が怯えて息を潜めていた。

「……河田君、彼女さんとケンカ……?」

給水タンクの影から、ショートカットの髪が揺れて出てきた。

クラスメイトの山岡ちゃんだ。

身長は高くもなく、低くもなく

デブでもガリでもなく。

特徴的な要素はさしてないんだけど

(あ、胸は標準以上にあるな)

気品があるといいますか、独特の空気があるといいますか

母親のような温かさを持ちつつ、ミステリアスな魅力を持っていたりする。

「やー 昨日ねー! 他校の女の子と遊んだら、キれてさーメールしたんだよ、だけどダメだったっぽーい」

山岡ちゃんへと近づくと、彼女は英語の本を下敷きに、膝に弁当箱を乗せていた。