「受け取ったのが私でよかったね。そうじゃなきゃ、しばらくあんたのとこに返ってこなかったよ」

「ほら、感謝しろ」と偉そうに胸を張ってくる。

「まずは事務棟に行って、管理棟に行って、失敗すれば用具倉庫で忘れ物傘と一緒くただよ」

「どうも……」

「じゃね!早く帰んなよ!」

こんな晴れの日に傘を持ってるのも変だと思いつつ

背を向けて廊下の向こうへ消える保健医を見送る。



「あの先輩、わざわざ……?」


ぽつり、と呟いて傘を見た。


名前も告げていなかったし

微妙に受け取りを拒否られていたと思ったのに

…………丁寧な先輩だな。

どんな顔だったか思い出そうとしたが、思い出せなかった。

ただ、抜けるような白い肌と、波のような黒髪だったことだけ、ぼんやりと思い出せた。

だが、すぐ消えた。傘は戻ってきたし、それでよかった。

傘を持ち替えて教室へ向かった。

たまにはいいことをするもんだ。そんな風に結論づける。


青空の広がる傘を差さずとも外は晴れ。


昨日の雨は何だったんだろう。

潤は傘を机の横へかけた。



END Thank you!