借りたものを返さないのは悪だと七海は信じ切っていた。


ふと、傘の内側に視線をとられた。


受け取った時は

黒いありふれたビジネスマンの傘に見えていたのだが

内側には青空が広がっていた。



七海のガラスの瞳に、真っ青の空が投影されて

キラキラと瞳が輝いた。


陰湿な灰色の世界が広がる頭上に

まぶしいばかりの青い

青い青空。


「わ…あ…」


思わず声が零れていた。


こんな素敵な傘があるのね。


七海は感動して、歌うようにして「素敵」と口にした。

空の雨雲より

ずっと近いところにある青空に手をかざした。


太陽光もないのに、すかした手には、青がさんさんと降り注いで明るく七海を照らした。