「今日はエイプリルフールだから、ウソついていいんだよ」

敦子はお気に入りの喫茶店、五条坂のカフェ・マルコの奥に陣取って

自信満々言ってくる。

俺は傘を畳みながら、ソファにゆっくり座った。

外は軽く雨がちらついていて、雨に濡れた桜の香りがしていた。

突然の雨で、咲いたばかりの桜もこれで大半散ってしまうだろう。

「だから、ウソでもいいから、敦子大好きッって言って!」

「意味不明だ。人にウソ要求するな」

思い切り却下して、カウンターの方へ視線を投げる。

「河田」

ここ、カフェ・マルコは河田が働いているカフェだった。

「名前で呼ぶなよ、おまえ!」

河田は黒いカフェエプロンを揺らしながらオーダーを取りに来た。

「客にお前とか言うなよ」

「で? ご注文は?」

「私ケーキセット」

敦子は言ってメニューを俺に返してくる。

「じゃ、俺コーヒー」

「え?」

「うそ」

河田と敦子が驚いたのですぐ否定する。

「び、びっくりしたよ、潤の口からコーヒーなんて出るなんて」

「エイプリルフールだろ。ウソの消費はこれで終了。今日も俺は正しく生きるぞ」

「そんなのでウソ消費しないでよ! 敦子好きって言ってよー!」

敦子が絶叫するが無視して河田にドリンクバーを頼んだ。