「付き合ってた時の私は、潤の……特別だったよね?」

2人で手を繋いでいたあの時の笑顔は

私だけのもので

私の喜びも悲しみも同じように、潤だけのものだよ。

「そうだよ」





「……付き合ってた」




なんて

短くて

心に留めておく余韻すらない一言


立ち上がった彼は、青空の傘の下で凛と立っている。

彼に急かされるようにして、私も立ち上がる。

冷えた海から、吹きつける風に乗って、コートに雪がついた。





「……ね、最後にキスして」

自分から別れのサインを切り出す。

最後の最後で、欲しかった『形』を手に入れても、苦しいだけだけど、でも

私はそんなに大人じゃない。

涙を堪えようとして、喉が熱い。

彼が嫌がるのを知っていたけど、でもこのまま別れたくもなかった。

「だめなら……キスして、いい?」

彼はこちらを見下ろしたまま黙っていた。

私が手を伸ばすと、彼の頬に指の腹が触れた。

「…………」

「……付き合いたいとか言わないから」

嫌われたくはないけど

このまま終われるほど、私は大人じゃない。

彼は、ほんのしばらく無言で私を見ていたが

一度小さく瞬きした。

「そういうのを、やっぱりお前は欲しがるんだよな」

「……ごめん」

「別にお前の考えなんだから謝ることじゃないし。──……でもさ、俺にはよく分からないけど、それでお前傷つかない?」


傷つくから、別れよう

そうも言ったのは私

傷つけるかもしれないし、別れよう

そう言ったのも、彼

特別な恋愛感情に踏み込めないのに、愛してると言われて喜べるのかと

彼はそう言った。

「でも、特別じゃなくなる前に、傷つくならそれでいいよ」

「傷つけるために別れるわけじゃないのに」

彼の目がそう言っていたけど


傷ついたりはしない。