でもね


好きだから




押さえられない気持ちもあるんだ。

大人になろうと、人を想おうとしてるけど、結局大切なのは自分だから




「別れても、これからも好きでいい?」



半歩先にいる彼に声をかける。



雪のカーテンを縫って、冷えた手を掴む。

彼は振り返ると、いつもどおりの黒い瞳で私を見た。


「これからも、敦子って呼んでくれるよね? 距離開いたりしないよね」


彼は苦笑して絡めた手を引っ張って

冷えた手をポケットに差し込んでくれた。

潤のコートのポケットはあまり温かくはないけれど、でもそれでも芯が暖まった。


「お前の自由、俺の自由。それともお前、俺のこと"黒沢君"、って呼びたいわけ? それならいいけど」


「イヤだよ、気持ち悪いよ、いまさらそんな風に呼んだら笑っちゃうし」


彼の言葉は、突き放すようだけど

でもとても優しい。


「そう思うなら、わざわざ聞くな」


そうだ


そもそも、彼と終わりになる今日


今日この日のこと、言い出したのは彼だけど


私がきっかけを作ってしまった。


ずっと、ずっと一緒に特別な関係にいたいのに


それをせき止めてしまったのは、私。