私の部活が終わるまでコートの外、フェンスによりかかるようにして、数学の参考書を開いて目で追ってる。

片付けが残った時は、参考書を閉じて一緒に手伝ってくれたりもするけど

美術部みたいに、1人で黙々と望む部活の方が、彼には合っているのかもしれない。

「敦子の彼氏?」

友達がそう言って潤のこと指す時、私は嬉しかった。

「この前体育のテニスの授業見てたよ。サーブうまいよね。男テニ行けばいいのに」

「あいつ、そういうのもう懲り懲りみたいで……」

彼を好きだと思う人と、嫌いだと思う人は分かりやすく2つに別れると思う。

私も彼が大嫌いだったから分かる。

「もったいない」

その言葉を、彼には聞かせられなかった。そういう人からの羨望の眼差しや要求が、彼をイラつかせるのを私は最近理解した。

彼にはやりたいことがあって、彼なりに欲しいものがあってその他はどうでもいいことで、そのどうでもいいことに対して価値を押しつけてくるのが嫌いらしい。

中学3年になるから、受験も目の前で揺れてる。

受験に例えれば「あなたならこの高校に行ける、行けばあれもこれもできる」と興味のない高校を薦められ強要されるようなものなのかもしれない。

彼は、私と違ってシッカリしていて

そして、その反面誰も自分の心に人を寄せ付けない、高い壁の中にいた。

片付けが終わると一緒に下校する。

吐く息が

お互い白くて

彼からこぼれる息は、白い肌と重なって、彼の身を切って流しているように見えた。



彼の名前は黒沢潤


私の名前は飯島敦子


私たちの特別な関係は、もうすぐ終わる。