世界中の人間が固唾を呑む中で、遂にデカボン1号発射の日が来た。
 
 発射台の周りには、華やかな装飾が施され、特設監視棟にはK書記長自ら中央に座して、その周囲はK共和国を動かす党・軍首脳陣が正装して囲んでいた。K共和国指導部オールスター総出演映画のようである。

 空は雲ひとつ無い、抜けるような青空だ。
 秒読みが始まった。「10、9、8,7,6,5,4,2,1、0」

 轟音が鳴り響き、ロケットの下部が白煙と水蒸気に包まれたが、2,3秒経ったかと思われた時、轟音が止み水蒸気の間から青みがかった液体がチョロチョロと流れ出して来たかと思う間もなく、その量は一気にTV画面を一杯に覆った。

 慌ててズームダウンして、大きく引かれた画面には、ロケットの下部を破壊しながら流れ出す、今まで世界中の人間が見たことも無いような水量の激流だった。

 ロケットのスカート部からは、中国長江中流域部分に建設されている世界最大のダムの決壊もかく有りなんと思えるような水量が、スマトラ沖地震における津波をも越える高さの波となって4方に走り出した。

 ロケットがスローモーションで倒れた後も、ゴロンと横倒しになったロケットの開口部からは、尽きる事のない量と勢いで新たな波が吐き出されていた。

 大津波は、発射台も監視会場もTVカメラも、何もかも全てを飲み込んでいった。

 何も映らなくなった砂嵐のTV画面の前で、世界中の人間が固まっていた。

 暫くして突然画面が、真っ青な空を映したままとなってテロップだけが流れ出した。

 「K共和国のデカボン1号は失敗した模様。原因は、固体水素と固体酸素の混合の過程で何らかの不具合が生じ、H(水素原子)2個とO(酸素原子)1個が結合した後に燃焼が起きず、そのままH2O(水)になってしまった模様。K書記長を含むK共和国指導部は発射監視棟もろとも所在が不明。尚、放出された水量は毎秒700トン、総量2100万トンにのぼり・・・・・・・・・・・」

 K共和国と隣国D国が、念願の祖国統一をしたのは、この6ヶ月後であった。

 K総書記長の行方は、今だ不明である。