『あ、鮎川先生。お疲れ様でした。』

受け付けの小島が加奈子に声を掛けた。

『お疲れ様。今日は混んだわね。』

加奈子は左肩を揉みながら小島の横に座った。

『明日からお盆休みだからですよ。うちの医院はお盆と正月だけ、長期休診に入るから、患者さんも焦るんですよね。きっと。』


小島が溜め息混じりに一枚のカルテを出し、加奈子に渡した。

『ん?この患者さんがどうかした?』


『いえ…ただ、今日初診だったんですけど、会計の際に鮎川先生の事を聞かれたんです。』


『私の事?』


『はい。鮎川先生は独身か?とか、この辺りに住んでいるのかって。不振だったのでお答え出来ませんって言ったら、顔をしかめて帰っちゃいました。』


『ふ〜ん。心当たりないなぁ…どんな女性?』


『ロングヘアーで、ツンとした顔でした。美人だけどプライド高そうな匂いプンプン出てましたよ。』

『何だったんだろうね。ま、気にしない方が良さそうね。』


『そうします。』

小島は加奈子からカルテを受け取ると棚に戻した。