「あれ?世海は?」

「部長ならさっき帰りましたよ、しかも凄い勢いで」

「……そう」

「でも凄いですよね!!流石、部長!!北陽台のエースに勝ちゃうなんて」

「何かあったのかな?」

「菊名先輩?」

「……ううん、なんでもない」
梨子は窓の外のオレンジ色に染まった空を眺めていた。



「……野球終わっちゃったかな」
その頃、世海は――。
頭の中は試合に勝ったという嬉しさよりも、早くグランドに行かなきゃという使命感に駆られていた。
それは……きっとアイツが居るから。

河原のグランドはさっきまで人が居たというぬくもりを残しながも、今は閑散としていた。
人の姿は見えない。

「……遅かったか」

グランドに一つだけ転がっている軟式用の柔らかいボール。

「よ~し!!」

手に取るとポーンポーンと二回宙に弾ませ、マウンドに向かった。

「立花世海、今大きく振りかぶって……投げました」
思いっきり放たれたボールが空気を切る。


「ストライク!!!バッターアウト!」