「と、いうわけで聴きません。」

桜さんが聴いてみてと押し付けたCDアルバムの歌詞カードを開いた私は、「君」だらけのそれを苦戦しながらCDケースしまいこみ、速やかに突っ返した。

いつも思うのだが、なぜ歌詞カードはあんなに収納しにくいのだろうか。何年も前からCDは発売されているのに、CDケースぎりぎりサイズの冊子の形状は変わらないままだ。

自分が歌詞カードをしまえないほど不器用なのが悪いと言ってしまえばそれまでだが、形状を変えないほうにだって少しは責任はあるはずだ、と思いたい。

「えぇー!なんで!さんごちゃん、歌うの好きなのに、」
「桜さん…!私は、山田です。」

背筋が凍る。その名前で呼ばれるといつもこうだ。お願いだから苗字のほうでお願いします。山田さんご、私のフルネームなのだが、どう見ても苗字と名前がつりあっていない。しかもコーラルピンクなんてガラでもない。

「かわいいのに…」
桜さんが少しだけ肩をすくめ、目を伏せる。私の部屋の証明が彼女の桜色の頬に長い睫毛の影を落とす。彼女の名前はこんなにも本人にぴったりなのに。