海外出張から帰って来たばかりのおれは、久しぶりにカレーが食べたくなり、あるレストランに寄った。
「カレーライス」注文を受けた時のウェイターの顔つきが気になったものの、カレーが運ばれて来た頃にはそんな事も忘れていた……食べるまでは。
 一口食べた途端異様な味が広がった。おれはウェイトレスにどう言う事か訊ねると、ウェイトレスはおれを事務所まで連れて行った。
 そこで支配人らしき男から「今日のところはこれで…」と現金入りの封筒を差し出されたがおれは受け取らずに「私は、何故チョコレートソースをカレールーの代わりに使ったものをカレーライスとして出すのかを聞きたいのです」と、ウェイトレス相手と同じ事を目の前の中年男に繰り返し訊ねる事になった。
「近年、国際社会におきましては刺激の強い食事による心身への害が問題視されておりまして、それに鑑みわが国でも刺激の強い料理を規制する法律が制定・施行されました。それでカレーも規制の対象とされまして、あのような代替措置をとっているのです……」慇懃ではあるが明らかにおれを厄介に思っているのが言葉の端々に感じられたおれはつい怒鳴ってしまった。
「ならば何故注文した時一言説明してくれなかったんだ!?そしたら別のメニューを頼んだのに!」
「説明の煩雑さを避けるための特別メニューですので……」目の前の中年男の説明に辟易し、代金を置いて足早に店を出た。ウェイターの表情の意味を噛み締めながら。
 翌日出勤すると周囲の視線が明らかに変わっていった。
 「カレーを無理に注文した男」と言う評判が少しずつ広まっていき、上司から「事を荒
立てたくない」とやんわりとクビを言い渡された。帰国してからカレーを食べようとした
だけでなんでこんな目に…。