それから、だいたい1時間30分が経って、館内にまぶしいくらいの照明が灯った。

時刻は午後7時41分。

映画館に入るときは昼間だったのに、外に出ると夜で、一瞬ビックリしてしまうあたし。


「ごめんな、オレ、途中から寝てたろ?」

そうセンパイに訊かれたあたしは、黙って微笑みながらうなずいてみせた。

「ひょっとして、オレ、イビキとかかいてなかった?」

後ろ頭をポリポリしながらセンパイが言う。

「大丈夫ですよ、すごく静かでした」

井川センパイの寝息は、彼と密着していたあたし以外には聞こえてなかったと思う。

……ってか、センパイの寝息って、寝ている井川センパイのそばにいたヒトしかゼッタイ聞くことができない音だよね?

今、地球上に、いったいどれくらいのニンゲンがいるのかなんて、そんなの、あたしには分かるはずもない。だけど地球上の全人類の中で、いったい何人のニンゲンがセンパイの寝息を聞いたことがあるんだろ……?

そう思うと、あたし的には宝くじの一等が当たったくらいの優越感に思いっきり浸れる。