「お前さ、“キスして、お願い”って、そんな顔してよく言えるよな? 今のお前の顔、鏡でよぉ~く見てみろよ」

その言い方は、いつもの相手を小馬鹿にした感じのソレだった。


「ちょっとォ、なにもこんなシチュエーションでそんなムードのない言い方しなくてもいーじゃんっ」

思わず目を開けて、声を荒げるあたし。


「だって、お前、鼻水垂れてるし、今お前にキスしたら、オレの唇にお前の鼻水がベッタリついちまうだろ」

彼に言われて慌ててティッシュで鼻水を拭き取るあたし。

「ゴメン、ちゃんと拭いたし、もうキレイだから、キスして」

「やなこった。ムードがねぇのはお前のほうだろ? “鼻水少女”になんかキスしたくねぇ、っつーの」

「もォーっ!」

「オロ? 鼻水少女が今度は“ウシ少女”になりやがった」

「もォ、茶化さないでよっ。コッチは真剣なんだっ。一生一度のファーストキスの瞬間なんだっ。そーやっておもしろおかしく茶化さないでよっ」