ψ2. 創られた使者



「めずらしいわね。こんな時間にあなたが此処へ来るなんて。」

美しいプラチナブロンドの髪をコンパクトに結い上げた白衣の女は、後ろを振り返らずに言った。


VINO CITYの郊外にある『ブルックス地区』。
政府の要請により数年前に造られたその一角は、VINOの産業開発の為の研究施設が集結する。

しかしながらVINOの頭脳とも呼ばれるその地区は、強固なセキュリティーによって内外共にクローズされている為、実際そこで何が行われているかを知る者は少ない。

中でも通称『白の翼』と呼ばれる、細長い半月状に聳える超高層ビルは、政府の極秘研究施設として建てられたもので、そこに立ち入る事の出来る者はごく僅かしかいない。


白衣の女- エレナ・イレイズは、その『白の翼』の最上階にある研究室の窓際に立ち、青く冴え渡った空に行き来する、銀色の飛行艇を眺めながら訊ねる。

「そんなにサンプルαの事が気になる?」

「当然だ。
今の私にとっては、議会よりもサンプルαの動向の方が重要だからな。」

仕立ての良いダークグレーのスーツに身を包んだ長身の男- ゼオ・イレイズは、豊かな髭を蓄えたその口元からバリトンの声を響かせた。