「小川っ!」
そう言った中島の声とその下駄の足音を追いかける足音も聞こえる。
あたしは立ち上がった振り返り、声をあげた。
『トマトっ!!!』
その声に中島は振り返る。
行かないで。
小川さんを追いかけないで。
あたしを1人にしないで。
そう伝えたくて口を開ける。
『い…』
「ごめんっ!」
あたしは口をあいたまま。
…中島の白い背中はたくさんの人ゴミの中に消えた。
賑やかなはずの祭りの音は全然耳に入らない。
あたしの呪文だった。
中島に向かって呪文を言えば、中島はこっちに来てくれるはず。
でも今の中島には全然効果なかった。

