報告を済ませた御言はその足で教室へと戻っていく。時間を見るとすでに一時間目の授業が終わるところだった。
「……ふむ。今回は仕方あるまい」
 とは言うものの授業をサボるのは、御言にとって今回が初めてではなかった。つまりは常習犯なのである。
 教室を覗き、授業が終わった頃を見計らって教室の中へと入る。すると教師と目があったが、向こうがため息を吐きそのまま教室を後にした。
「おはよう、御言。今日はずいぶん早いね? って早いで思い出したんだけど、昨日のハガレン見た? あぁ鋼の錬〇術師の事だけどね? あれだけどさ…」
 といきなりアニメの話しをしだすのが、柿崎豊。趣味がかなりのアキバ系なのだが、これでも一流大富豪の子息なのだ。
「………ん?」
 適当に話を流していると、ふと 斜め前にいる女子生徒と目があった。がそれも一瞬で、あっという間に視線を反らされた。
「でね? …って聞いてる? 御言。まぁ確かに天童さんは美人だけど、僕たちには届かないよ」
 先ほどの女子、天童葵は神楽家に並ぶ超が付く大財閥の令嬢なのだ。容姿端麗、才色兼備。運動神経抜群で学園のアイドル的存在だったりするのだ。
「どうかした?」
「いや気のせいだろう。それで? なんの話だったかな」
「だーかーらー。ネ〇ま! に出て来る女の子の中で誰がいい? って話だよ。ちなみに僕は那波〇鶴か近衛木〇香か柿崎〇砂だね」
「なるほどな。よく分からんが」
 正直なところアニメの事はいまいち詳しくないのが、現状だった。
 そんな御言を見てか豊は肩を落としながら、それでも意を決し鞄の中から一冊の雑誌を取り出した。
「これならどうだ!」
「それは?」
「ふっふ〜ん♪ 聞いて驚かないでよ? これはなんと! かの有名な同人誌! フリーダムハーツなのだ!」
 どうやら豊の態度から見て凄い物なのだろうが、御言は全く興味を示さなかった。
 ガタッ!
 しかしそんな中、椅子を大きく倒し、こちらを凝視している生徒が一人いた。
「……天童、さん」
 そう。我を忘れ立ち上がったまま、見つめていたのは葵だったのだ。