あれからしばらくの年月が過ぎ、セレスティア学園に再び春が訪れた。
 以前と違う最大の特徴は女子校だったのだが、ちょうど今から一年前から共学になったのだ。
 実を言えば司を入学させたのは、この事を見込んでの事だったのだ。
 しかしやはり敷居はかなり高いらしく、男子も上流階級ばかりで、その生徒数も絶対数がかなり低かったのだ。
 そんな数少ない男子生徒の中に、眼鏡をかけた一人の少年が学園内の廊下を歩いていた。目指すは一つ理事長室である。
 時折、すれ違うクラスメートに挨拶を交わし、目的地である理事長室へとたどり着いた。
「……ふむ」
 一応呼吸を整えてから少年はドアを二回ほどノックした。
「入りな」
 部屋の中から返事が返ってきた。
「失礼する」
 少年はドアを開けて部屋の奥へと進んでいき、執務机の前で立ち止まった。
「さて。俺も一応は多忙の身でね。用件はさっさと済ませたいのだが?」
 少年の言葉に理事長はがっくりと肩を落とした。
「相変わらずだな。御言。お前の評判がどんなものか知っているのか? 教えてやろう。変人だ」
「ハッハッハ。これはまたエキセントリックな事を言うものだね。魔女と呼ばれた御影木の葉はいまだ健在か。口だけだがね」
 今、御影の目の前にいる木の葉は歳相応の姿をしていた。カオスとの戦いで消耗した魔力が回復していないためだった。
「近頃の若い連中は年配を敬う気持ちは無いようだね。まぁいいさ。それよりも、宗主は元気にしてたかい? 会ってきたんだろ」
「宗主? 知らんな。俺が会ったのはクソラブいバカップルだけだ」
「そうか。元気なんだね。それは安心だ」
 木の葉は背もたれに体重を預け、優しく微笑んだ。
「さて。老人は忘れっぽくて困る。俺は多忙の身と言った事を覚えているかね?」
「…当然だろう?」
「それはおめでとう。まだボケが始まっていないようだ。では報告を済ませる」
 御言は木の葉から受けた任務の報告を、事務的に行ったのだった。