岸本響子。

 まだ20代の若い担任だけが俺を叱りつけたのだ。

 最初のころはうるさくてしょうがなかった。

 どうせ生徒に問題があると出世に響くから俺をかまうんだろう。正義感ぶってるからだ、とか色々思ったし、それを先生にひどい言葉でぶつけた。

 いつのころからだろう。

 説明のつかないじれったさが心の中に生まれていた。

 曖昧で、辛いとさえ感じる感情の意味を知っていたけれど、気づかないようにしていた。

 それは感じてはいけない種類のものだったから。

 口にしたとたんに、きっと響子先生は俺から離れていくんだろう、と本能的に悟っていたから。

 だけど、先ほどの里香の言葉でそれを押さえる必要がないんだと気がついた。