桜並木の長い坂を上りきると、私立T高校が見えてくる。すでに日は落ちかけていた。

 茜色の空の中に、白い箱型の建物があった。

 俺は頂上まで走りきると、止め処なく流れ出る汗を拭き取ることに専念した。

 職員室はまっくらだったが、俺のいた3年D組の教室には明かりがついている。

 ただ進学のことしか頭になかった高校生活でも、たった一つだけ忘れられない思い出がある。

 やり残したことが、一つだけある。

 ――響子先生。

 俺は、やるせない想いを呟きながら校門をくぐった。