俺たちが私立T高校の生徒だったのは、つい三時間前までだった。

「康平、さっきから上の空なんだもん。つまんない」

「俺が上の空でもお前には全然関係がないだろう?」

「あるもん!」

 早くも酒が回ったのか、里香は涙目になりながら俺の手を握り締める。女性経験がない俺はこんな女でも手を握られるとドキドキする。

 俺は何も考えられなくなり、伸一の熱唱を呆然と見つめていた。

 卒業式の打ち上げ――と称してカラオケ屋に来ている。なのに、上の空だ。

 心にひっかかっていることがある。なにか、大切なことを忘れてしまっているような気がする。

アップテンポな曲が、クライマックスを迎えるころ、里香は俺の耳に囁いた。