「卒業、おめでとー」

 曲の終わりと同時に、里香がマイクを握り締めたまま高い声で叫んだ。耳障りな声だ。

 その声に同調するように、狭いカラオケボックス中にいる制服を着た男女が五人、総立ちになる。

 俺、菅野康平一人をのぞいては。

「…どうしたの、康平。盛り上がってないなぁ」

 次の曲が始まり、伸一が目をつぶって熱唱し始めると、里香が俺の隣にぽすん、と腰を落ろした。

 かなり太めな外見も含め、十人中全員が可愛くないと認めるだろう。

 どうやら俺に気があるらしく、無理矢理参加したらしい。意味が分からない。

「さっきから、時間ばっかり気にしてる」

「そそそ、そんなことないよ」

 右腕のG-ショックをもう何度見たことだろう。

 午後三時二十分。

「おいっ! それ酒だぞ」

 里香は、テーブルの上にあったコップを掴んで煽る。

「だ~いじょうぶ。もう怒る人なんていないもん。そ・れ・にぃ……」