戦国遊戯

「玲子、こちらは、我が主、武田信玄様だ」

言われて、やっぱり、と、心の中でつぶやいた。
思ったことをそのまますぐに口に出しては、こちらではいくら命があってもたりないということは、幸村の家で嫌というほど思い知ったからだ。

「あの、えーっと・・・」

なんと言えばいいのかわからず、おたおたしながらも、とりあえず、名前を言わなくては、と思い、必死で口を開いた。

「玲子と申します」

そう言って、両手を前につき、深々とお辞儀をした。確か、殿様なんかの、身分の高い人に挨拶したりするとき、時代劇なんかでは、こうやってお辞儀してた気がする。なんていおうかと必死で考えたが、結局、何も思い浮かばず自分の名前しかでなかった。
うろ覚えの記憶を、がんばって奥底から引っ張り出し、まねしてやってみる。

「玲子、か。ふむ」

まじまじと私のほうを信玄が見てくる。なんだか妙に照れくさい。というか、武田信玄は、もっとおっさんだと思っていたが、想像していたのより、はるかにかっこよくて、少しばかりときめきを覚えるくらいだった。

「幸村。お主にしては珍しいな。わしに紹介するくらいなのだ、よほど気に入ったとみえる」

笑いながら幸村の方を見ると、幸村は、顔を赤くして否定した。

「き、気に入っているというわけではなく、玲子はとても面白いのです」

「や、面白くないです」

幸村が言うのをきっぱり即答で否定した。信玄はくつくつと笑う。

「なるほど、な。お主に対して、そのようにはっきりと物を申す女子は、珍しいの」

肩肘をついたまま、私と幸村を交互にみる。

「さて、玲子よ」

「は、はひ!」

「わしは今から、幸村と大事な話がある。後で呼びにやるので、適当に、そのあたりを散策していてはくれまいか」

言われて、こくん、と頷いた。
大事な話。ここではきっと、戦のことだろう。そんな血なまぐさい話は私だって聞きたくない。ワールドヒストリで、何度も戦争をして、敵軍を倒しにいったりしたことはあったが、それでも、目の前で人が死ぬのは、あまりいい気がしなかった。遠まわしに、部屋から出てくれという、信玄の提案を快く受けた。