奏ちゃんは少し俯き加減で、

『……大橋 隆之(オオハシ タカユキ)。

有名な音楽プロデューサーでtoneも担当してた。』

と言った。

……だからか。

あたしの記憶がギシギシ言ったのは。

奏ちゃんは相手の瞳を真っ直ぐ見て、









『もう歌音には…………あの頃の記憶はありません。』

きっぱり告げた。


大橋さんは驚いてあたしを見張り、

『……マジかよ。』

と言う言葉を呟いた。


「だから無理なんです。

今のまま、歌音ちゃんを歌わしたらファンにも迷惑がかかる。」


すると大橋さんは口元を上げ、


「それでもいい。









記憶が無くなっただけで歌声は変わらないだろ?」


ズキッ……


“──もっと声を出して!!”

「……あ、あたしの歌声は、」


“HAZUKIの声はスゴい売れるぞ”












「売る為にある訳じゃない!!」


そんな為にある歌声なんかいらない。

あたしの歌声で1人でも救われたら、

あたしの歌声で1人でも安らぐなら、

そう想って歌ってたと思うから。

すると大橋さんはフッと笑い、

「相変わらずの気の強さだ。

まぁいい。

とりあえず李亜と元太を呼べ。

話しは後からにする。」

そう言って大橋さんは颯爽と帰っていった。