お通しを口に運ぼうとした殿が、


 箸を止めた。


「どうしたの?殿?」


 僕が殿をみると、


「ん、これが邪魔なのだ。」


 と、殿が肩をいからせた。


 どうやら、殿は肩下まで伸びたサラサラの髪がお食事に邪魔だ、


 と、訴えているのだ。


「えーっと、ヘアゴム・・・。」


 僕が持ってるわけないじゃないか。


「わたし、持ってるよ?」


 その声はマドンナ!


「ほう、じゃ、頼むぞ。」


 と、殿は当然のように髪をシャンプーのCMのようになびかせて、


 マドンナにわざわざこちらに来て、


 結べ、というのだ。


「ええええ????」


 僕がびっくりしている間に、


 マドンナはピンクの可愛いシュシュを持って、


 頬もピンクに染めながら、


 おずおずと殿の背中に近づいていく。


 もはや、マドンナ唯ちゃんは、殿の女房だ。


 ちなみに、女房とは貴族の身の回りの世話をする女のことである。


「殿、くん?」


 マドンナは殿の髪の毛をかき束ねながら、話しかける。


「なんだ?」


 殿は、どんな時でも殿さまである。


「ふふふふ。なんでもな~い。


 ほら、できたよ。」


 マドンナは殿の髪を結いあげ、


 最強の笑顔を殿の肩越しに向けた。


「ほう、たすかった。」


 殿も笑顔を浮かべ、何もなかったように


 お通しに箸をつける。


 僕も、髪を伸ばそうか、と本気で考えてしまった。