落ち着いた店内の雰囲気が、僕は気に入っている。
「えと、とりあえず、生中2つ。」
あや、居酒屋特有の威勢のいい「はい」が聞こえない。
僕だって居酒屋バイターだ。
これでは、だめだ。
「あ、手羽先、2本と、枝豆。
お好み焼きにー、ホッケ。」
ん?うんともすんとも言わない店員。
僕は、メニューの上から、店員のほうをのぞいた。
「ぇ?」
店員は女の子で、タコのように顔を真っ赤に染めて、
口をパクパクさせながら、
なんと殿のことをガン見している。
殿は、浴衣独特の色気を、
貴族パワーでさらにバージョンアップさせ、
メニューを物珍しそうに眺めていた。
すると、おもむろに顔をあげた殿はものすごい笑顔で、
「タケル。これを食べたいぞ。」
と、写真を指差した。
僕は、どれどれと、殿の持っているメニューを見ようとした。
しかし、僕よりも素早く、真赤な店員は、
「和風、いちごミルフィーユパフェですね!!!!!
かしこましました!!!!」
と、大変元気のよろしい発声で、マッハで出て行った。
なんだあれ。
僕は殿に聞いてみた。
「殿ってさ、モテたでしょ?」
殿は小首をかしげた。
「はて、もてるとは?」
「おなごによく言寄られなかった?」
すると、殿はえもいえぬような微笑みを浮かべて、
「そのようなことを聞くのか、タケル。
フフ、野暮よの。」
と、言い放った。
やーぼー。
野暮らしい。
そういうのは。
さっきの店員は顔面ボヤ騒ぎかと錯覚するほど、
アツかったわけだけど、
野暮って!!
ったく、いい身分だぜ。
いや、実際、彼、貴族ですけど。
そういや、僕が言ってたやつ、
頼んであるのかな。
ビールですら、来なそうだけど。
僕は恐る恐る、呼び出しボタンを押した。