「もしかしてそれ言うためにウチの近く通ったん?」
なんだか正式に理由を言われると照れ臭いんだけど…まぁ、間違いないよね。
「だって携帯も知らないし…朝ごはんまで作ってもらったし…。」
「そっか。わざわざありがとな。」
セイチャンの優しい笑顔を見ると、胸がきゅうってなる。
本当はね、それだけじゃない。
でも言えない。
セイチャンのあったかい手に触れたい、なんて。
言えない。
するとセイチャンは、あたしの腕を掴んで軽く引き寄せた。
そして、あのおっきな手であたしの髪を撫でた。
うつむいてるせいかな?
じんわりと、あたしの目には涙が浮かぶ。
「ミアチャン?」
なかなか顔を上げられないでいるあたしを、セイチャンは心配そうな声で呼ぶ。
「えへ、飲み過ぎたみたい。もう帰って寝るよ!」
あたしはセイチャンの手を掴んで頭から下ろそうとして、一瞬躊躇した。
なんでだろ。離したくない。
それでもゆっくりとその手をセイチャンの体へ戻した。
セイチャンは何も言わない。
「本当にありがとねっセイチャン。また…。」
変な子だと思われたぁ。
セイチャンに背を向けて歩き出そうとしたら、やっとセイチャンが声を出した。
「ミア!」
ミア?
呼び捨てなんて初めてじゃん。
振り替えると、セイチャンはガサガサとポッケから何か出してるところだった。
「なあに?」
そのままソレに胸ポケットから出したペンで何かをメモした。
「なんかあったら電話しぃや?」
手渡されたのは、レシートの裏に殴り書きされた携帯番号。
「あ、ありがとぅ。」
あたしはソレを握り締めると、セイチャンにおやすみと言って今度こそその場を離れた。

