人気のない路地
気づかれない距離を確保する為に遠くで待機する結果
真田さんと碧のやりとりは全く聞こえてこない。
ただ、姿は見えるからなんとなくは分かる。
時間で言えばたった数分のことだった。
碧に近寄って行く真田さん。
ちょうど彼がこっちを背にするかたちで会話が始まった。
服装や態度に明らかなおかしさを感じるから
不審そうに警戒して、でも最初は何事かと話を聞く碧。
間もなくして
彼女は2、3歩後ずさってしきりに周りを見回し始めた。
「ちょっと照!…なんかキョロキョロし出したわ。
気付かれたらマズイよ」
「こんな遠いのに気付かないってー。結構心配性なんだな夢瞳」
「そうかな…?」
のんきに答える照は缶コーヒーなんて飲みながらくつろいでいた。
でもそんな心配も結局杞憂に終わり、
いつの間にか当事者ふたりに進展が訪れていた。
突然真田さんが碧の手を衝動的に掴んだ!
いきなりそこまでするのね真田さん…
碧が当たり前にドン引く。
…にもかかわらず
何か話す様に、逆に詰め寄る真田さん。
やるわね。
ていうより恐いくらい大胆で、誰も路地を通らないことを祈るしかなかった。
「あ。逃げてくよ、碧」
誰も来ないか確認する為に、挙動不審気味に辺りを見回していると
照が言った。
視線を戻すと
言葉通りに逃げ去る碧の後ろ姿が角を曲がって消えるところだった。
