崇佑は

ちょっと心外だな。

という顔で答える。



「夢瞳さん
俺まさか手当てのお金を女の子から取ったりしないよ」

笑って今手当てをしてくれた手を
大切なものを触るように持って…


「帰ろう夢瞳さん。
送ってくよ」

ゆっくり、来た道を戻る。


「いい」


「え?」


「送ってくれなくて良いわ。
ひとりで帰れるし、あなたも――」

「崇佑」


…え?


「あなた。
じゃなくて崇佑って呼んでよ、夢瞳さん」


真剣な表情。

さっきとは打って変わって、
強い少年の眼差し。


「崇佑…」


「そ。
俺、ずっと会いたかったんだ。
あの日助けてくれた女の子に。
だから今日はこれで充分かな」


崇佑は言って手を放す。


「夢瞳さん
俺のこと覚えておいてね。
絶対また会うことになるから」


「…え、あぁうん」


なんだか間抜けな返事しか出来ないわたし。


不思議な少年。


いつその日が来るかは謎だけど

なんとなく

忘れることは無いと思った。



「じゃあココでお別れ」


「ありがとう手当て。
それじゃね」


「気を付けてね」


答えの代わりに、包帯が巻かれた右手を振ってみせた。


「絶対。またね!」


最後にそう聞こえた気がした。