ちょうど部屋の扉に手をかけたところだった。
考えに更けて人の気配に気付かなかった。
この声は。
「まだ何か用なの、碧?」
ホントしつこいな。
なんとかその言葉は飲み込んだ。
言い争って問題になるのもバカらしいから。
「…あるから呼んだのよ」
苛立ちを隠しもしない碧。
「用がなかったらアンタと話したくなんて無いわよ。
ただちょっと聞きたいことが…」
「あなたたち!」
碧が切り出そうとした時
叱責がとんだ。
「もうすぐ9時になるでしょう!
早く部屋に戻りなさい!」
表面的な規則にうるさい職員は
とにかくわたしたちを部屋へ戻そうと躍起になる。
わたしと碧はこの場で逆らうのは得策ではないと分かりきっているだけに、
黙り込んでしまった。
「何をしているの!
聞こえないの?」
黙ったのを幸いに、
職員は偉そうに主張を続けた。
このままでは面倒なことになると踏んで、
わたしはもう一度部屋のドアに手をかける。
碧も諦めたのか、
無表情でわたしの隣を行き過ぎる。
「消灯が過ぎたら
プレイルームで待ってるわ。
話はそこで」
職員には万が一にも聞こえない小声でささやくと、
碧は自分の部屋に消えていった。